秘密結社「黄金の夜明け団」とタロット

タロットの神秘的な側面により光を当てる立役者となったのは、１８８８年にイギリスで設立された魔術の秘密結社「黄金の夜明け団」です。この結社こそ現在の魔術運動、いわゆるオカルトの実質的なスタート地点となり、精神世界の探究にとても大きな影響を与えました。

「黄金の夜明け団」の魔術的な儀式、教義は非常に多面的で膨大な量になります。その中でタロットは魔術的な世界を理解してアプローチするツールとして最も重要な役割を果たしていました。現在広まっているタロット占いの本の多くはこの「黄金の夜明け団」のタロット教義が一般化して広まったものです。また、現在最も多くの人に愛されているタロットである「ライダー・ウェイトタロット」はこの秘密結社から生み出されました。このようにタロットの歴史において「黄金の夜明け団」は非常に大きな影響を与えたのです。

この秘密結社は１８８８年の３月に誕生しています。A・F・A・ウッドフォードという牧師が知人であるウィリアムズ・ウェストコット（英国薔薇十字団会員）に奇妙な暗号を送ったことが始まりでした。さらに偉大な魔術師、マグレガー・マーサスが関わりオカルト的な要素を強めていきます。

「黄金の夜明け団」はその後、ノーベル賞詩人や女優なども参加し勢力を拡大していきます。そしてウェイト版タロットの作者として知られるアーサー・エドワード・ウェイトが加わることで、ついにタロットに具体的な影響を与えていくことになります。

「黄金の夜明け団」の最大の特徴は、魔術の教義を作り、それを用いて参加者に学びを与え、学びの深さに応じて相応しい位を与えていくというシステムを作り上げた点です。

教義を作るために、タロット、天使論、召喚魔術、錬金術、ヘルメス学など様々なオカルト理論を複合的に体系化しました。そしてユダヤ教のカバラ思想を反映した「生命の樹」と呼ばれる図を様々な知識をまとめ上げるための基盤として利用しました。

「生命の樹」とは１０の天球とそれを結ぶ２２の経路からなるカバラ思想を具現化している宇宙を表す図です。「黄金の夜明け団」ではこの生命の樹に、ユダヤ、エジプト、ギリシアなどのあらゆる神話、様々な天使、占術体系などを結び合わせ独自の教義を構築していきました。

タロットは「黄金の夜明け団」では魔術的な教育のための重要なツールとして活用されていました。例えば参加者は生命の樹に基づく魔術的な世界観を深く理解するために、教義にのっとったタロットを自分で作るプロセスがあるくらいでした。そのようにして知識や実践を積むことで、学びの深さにふさわしい位を与えられ、さらに学びを深める度にひとつひとつ位も上がっていきました。

カバラ、エジプト神話、聖書、様々なオカルト思想などが複雑にからみ合い「黄金の夜明け団」の教義は作られていきました。タロットはその複雑で深淵な教義を理解し実践するための大きな役割を担っていたのです。